大判例

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仙台高等裁判所 昭和45年(行コ)14号 判決

控訴人

今野幸治郎

右訴訟代理人

勅使河原安夫

外四名

仙台北税務署長事務承継者

被控訴人

仙台中税務署長高橋盛

右訴訟代理人

伊藤俊郎

外八名

主文

原判決を取り消す。

仙台北税務署長が控訴人に対して昭和四一年三月一二日付でなした、昭和三七年度分の所得税の更正及び過少申告加算税賦課処分中、納付すべき税額三〇三、八四〇円、過少少申告加算税五、九五〇円を超える部分、昭和三九年度分の所得税の更正及び過少申告加算税賦課処分中、納付すべき税額九三〇、三八〇円、過少申告加算税三四、五五〇円を超える部分をいずれも取り消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1、2、4の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二そこで、本件(一)(二)の各処分の適否につき以下に判断する。

1、控訴人が福島から被控訴人の前記事実摘示第二の三の3記載の各金員(以下被控訴人主張の金員という。)の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

被控訴人は、その主張の金員中、昭和三七年度に支払を受けた合計九、五九六、二〇〇円は控訴人の昭和三七年度分の、昭和三九年度に支払を受けた合計七、一〇五、九六一円は控訴人の昭和三九年度分の各収入金額になる旨主張する。

ところで、一定の収入金額が生じた時期を決定する基準について、昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下旧所得税法という。)第一〇条は、「収入すべき金額」による旨規定し、「収入した金額」とは規定しておらず、その収入の原因となる権利が確定的に発生した時点で所得の実現があつたとする建前(権利確定主義)を採用しているものと解される(最高裁昭和四〇年九月八日第二小法廷決定刑集一九巻六号六三〇頁、同昭和四九年三月八日第二小法廷判決判例時報七三八号六二頁)から、被控訴人主張の金員の支払時期をもつて直ちに収入金額の帰属年度を決定することはできず、控訴人主張の金員の支払の原因である権利の確定時期について考察しこれにしたがつて収入金額の帰属年度を決定しなければならない。

2  右見解に立脚して本件を考察することとする。

控訴人が福島に対し、昭和二一年九月一五日から控訴人所有の土地(〈証拠〉によると、この土地は仙台市裏五番丁一三番の三宅地72.67坪、同一二番の三宅地23.78坪、同一一番の一宅地83.97坪、以上三筆合計180.43坪((昭和二四年九月一〇日特別都市計画に基づく土地区画整理法に基づく土地区画整理による換地予定地として、仙台市裏五番丁一一番の二、同一三番の三、同一一番の一、同一〇番宅地の一部第二五ブロック三一号124.94坪(賃借部分実測124.825坪)が指定。以下本件土地という。))であることが認められる。)を賃貸していたこと、昭和二七年以降本件土地の賃料は一ケ月三五、〇〇〇円であつたところ、控訴人は昭和三〇年八月福島に対し同年九月以降の賃料を坪当り一ケ月二、〇〇〇円に増額する旨の意思表示をし、これに基づき、昭和三二年一月八日仙台地方裁判所に地代等請求の訴を提起し、次いで、同年一〇月六日地代不払を理由に本件土地の賃貸借契約解除の意思表示をし、同月七日右解除を原因とする建物収去・土地明渡及び賃料相当の損害金の支払を求める訴を同裁判所に提起したこと、右の訴は被控訴人主張のように控訴人の勝訴となつたこと、以上の各事実はいずれも当事者間に争いがなく、そして〈証拠〉を総合すると、次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  仙台地方裁判所は、前示地代等請求及び建物収去土地明渡等請求事件(同庁昭和三二年(ワ)第四号、同年(ワ)第五七一号)につき、昭和三五年一一月一八日、福島に対し、本件土地上の建物を収去して本件土地を控訴人に明渡し、かつ、八、三一三、三九七円及びこれに対する昭和三四年一一月四日から支払済まで年五分の割合による金員、同年九月一日以降本件土地明渡済まで一ケ月二〇六、一五一円の割合による金員を控訴人に支払うよう命じ、かつ、控訴人が一、九八〇、〇〇〇円の担保を供することを条件とする仮執行宣言付判決を言い渡した。福島は右判決に対し仙台高等裁判所に控訴するとともに、その執行停止決定の申請をし(同庁昭和三五年(ウ)第一七四号)、その頃同停止決定を得た。仙台高等裁判所は、右控訴事件(同庁昭和三五年(ネ)第五五八号)につき、昭和三七年五月二八日、本件土地の賃料が昭和三〇年九月分以降一ケ月一三一、〇六六円二五銭(坪当り一、〇五〇円)に増額されたこと、本件土地の賃貸借契約は賃料不払により昭和三二年一〇月六日限り解除されたこと、解除後の賃料相当の損害金は、同月七日以降同年一二月末日まで一ケ月一八七、二三七円五〇銭(坪当り一、五〇〇円)、昭和三三年一月一日以降本件土地明渡済まで一ケ月二〇五、九六一円二五銭(坪当り、一六五〇円)であること、以上の各事実を認定したうえ、第一審判決を変更し、福島に対し、本件土地上の建物を収去し、本件土地を控訴人に明渡すべきことを命ずるとともに、滞納賃料二、六五七、〇二三円九一銭(内増額分は二、四二〇、二四九円七一銭)及びこれに対する昭和三四年一一月四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金、賃料相当の損害金四、六四四、六九七円九八銭及びこれに対する右同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金、ならびに、同年九月一日以降本件土地明渡済まで毎月二〇五、九六一円二五銭の割合による賃料相当の損害金の各支払を命じ、かつ、控訴人が一、九八〇、〇〇〇円の担保を供することを条件とする仮執行宣言付判決を言い渡した。福島は右判決に対し上告するとともに、仙台高等裁判所に対し右仮執行宣言付第二審判決に基づく強制執行の停止決定の申請をしたが(同庁昭和三七年(ウ)第九七号)、同年六月一一日右申請の却下決定がなされた。最高裁判所は、右上告事件(同庁昭和三七年(オ)第一〇四〇号)について、昭和四〇年二月一九日上告棄却の判決を言い渡し、右第二審判決は確定した(但し、昭和四〇年二月一九日上告棄却の判決が言い渡されたことは当事者間に争いがない。)。福島は同年八月三一日本件土地上の建物を収去して本件土地を控訴人に明け渡した。

(二)  控訴人は、右上告事件係属中である昭和三七年七月一八日、仮執行宣言付第二審判決に基づき、福島らが仙台法務局に供託した保証金(仙台高等裁判所昭和三五年(ウ)第一七四号強制執行停止決定申請事件で福島らが供託したもの)とこれに対する利息金合計四、三五一、二〇〇円の取戻請求権の差押・転付命令(仙台地方裁判所昭和三七年(ル)第一八二号)を得、その頃その支払を受け、そして、同年一〇月一一〇日頃夜間執行の許可を得て福島外一名の有体動産を差押えたところ、福島は同月二九日控訴人に対し、五、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、残額も支払計画を樹てて支払うから執行をまつてもらいたい旨申し出、控訴人はこれを了承し、執行を解除し、そして、福島から被控訴人主張のその余の各金員(但し、福島が昭和三七年一月から同年七月まで一ケ月三五、〇〇〇円の割合で供託した計二四五、〇〇〇円を除く。)の支払を受けた(但し、以上の各金員の支払を受けた点は当事者間に争いがない。)。

3、被控訴人は、第二審判決確定前であつても、福島が被控訴人主張の金員を支払つた都度、その限度で権利が確定した旨主張するのに対し、控訴人は右金員は確定的支払でなく、条件付のものであつて、一時的預託金にすぎない旨主張して抗争する。

ところで、仮執行宣言付判決に対する上訴提起後に支払われた金員は、それが全くの任意弁済であると認めるに足る特別の事情のない限り、民訴法一九八条二項にいう「仮執行宣言ニ基キ被告カ給付シタルモノ」にあたると解すべきであるから(最高裁昭和四七年六月一五日第一小法廷判決民集二六巻五号一〇〇〇頁)、福島が控訴人に支払つた前記各金員は、仮執行宣言付の前記控訴判決に基づいて支払われたものと推定されるところ、原審証人鈴木譲の証言中には、福島が控訴人との合意により確定的に被控訴人主張の各金員を支払つた旨の供述部分が存するが、これは、原本の存在及び成立に争いのない乙第一〇号証の記載、当審証人勅使河原安夫の証言、原審及び当審(第一、二回)における控訴人本人尋問の結果に照らして採用できず、他に右推定を揺がすに足る証拠はない。

以上のしだいで、福島の支払つた被控訴人主張の各金員は、前記のごとく仮執行宣言に基づく給付にかかるものである以上、右金員の支払は、仮の弁済であつて、他日本案判決が破棄されないことを解除条件とする暫定的なものにすぎないと解するのが相当である(大審院大正一五年四月二一日判決民集五巻二六六頁)から、被控訴人主張の各金員の支払をもつて権利確定とみることはできず、被控訴人の前記主張は採用できない。

4、そうすると、被控訴人主張の各金員は、その支払の原因である第二審判決の認容した各権利の確定時の収入金額とするのが相当であるところ、前記認定の各事実によると、第二審判決の認容した前示の延滞賃料請求権の内、従前の賃料額部分は、その各支払期に確定し、増額賃料二、四二〇、二四九円七一銭部分、の賃料相当の損害金請求権、に対する各遅延損害金請求権、の賃料相当の損害金請求権(福島は昭和四〇年八月三一日本件土地上の建物を収去し、本件土地を控訴人に明け渡したから、昭和三四年九月一日から昭和四〇年八月三一日まで毎月二〇五、九六一円二五銭の割合による損害金となる。)は、いずれも第二審判決の確定した昭和四〇年二月一九日に確定したものというべきである。

なお、控訴人は、賃料増額の意思表示により、その時点で増額賃料請求権が確定し、地代相当の損害金請求権は不法占有の都度発生し確定する旨主張するが、控訴人主張の右の時点においては未だ具体的に権利と金額が確定しているものとはいえないから、控訴人の右主張は採用できない。

また、控訴人は第一審の仮執行宣言付判決の言渡により右の各権利が確定する旨主張するが、前同様の理由で採用できない。

次に、〈証拠〉によれば、被控訴人主張の昭和三七年度分金員中、四、三五一、二〇〇円(昭和三七年七月一八日差押転付命令で取得したもの)は、の延滞賃料二、六五七、〇二三円(円未満は切り捨てた。)との賃料相当の損害金四、六四四、六九七円九八銭から六三〇、〇〇〇円(福島が昭和三三年三月から昭和三四年八月まで一ケ月三五、〇〇〇円の割合により供託した金員)を控除した残四、〇一四、六九七円(円未満は切り捨てた。)の内金に仮に充当され(その結果の残額は二、三二〇、五二〇円となる。)、昭和三七年一〇月二九日支払の五、〇〇〇、〇〇〇円は、の残り二、三二〇、五二〇円、に対する昭和三四年一一月四日から昭和三七年七月一八日まで年五分の割合による遅延損害金三五九、八〇六円、に対する右同期間の年五分の割合による遅延損害金五四三、六四一円、の残金二、三二〇、五二〇円に対する昭和三七年七月一八日から同年一〇月二九日まで年五分の割合による遅延損害金三二、八七一円にそれぞれ仮に充当され、残り一、七四三、一六二円と二四五、〇〇〇円(昭和三七年一月から同年七月までの供託分)はいずれもの損害金に仮に充当され、被控訴人主張の昭和三八、三九年度分の各金員はいずれもの損害金に仮に充当され、第二審判決の確定により、右充当関係が確定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、前示の延滞賃料に充当された金員中、従前の賃料額部分はその従前の賃料の支払期の属する年度の収入金額と(この分について既に確定申告済であることは〈証拠〉により明らかである。)、その余の増額部分二、四二〇、二四九円、の各損害金、に対する各遅延損害金に充当された金額はいずれも第二審判決の確定した昭和四〇年度の収入すべき金額と認めるのが相当である(但し、控訴人が昭和三七年度、昭和三九年度にそれぞれ従前の賃料額一ケ月三五、〇〇〇円の割合による金員を収入金額として確定申告していることは当事者間に争いがないので、この分を控除した範囲で)。

三以上の次第により、被控訴人がその主張の昭和三七年度分の金員計九、五九六、二〇〇円から四二〇、〇〇〇円(控訴人の確定申告分)を控除した九、一七六、二〇〇円を昭和三七年度の収入金額と、昭和三九年度分七、一〇五、九六一円から四二〇、〇〇〇円(前同)を控除した六、六八五、九六一円を昭和三九年度の収入金額とそれぞれ認定し、これを基礎にして控訴人の昭和三七年度、昭和三九年度の各所得税を控訴人主張のように更正し、過少申告加算税を賦課した本件(一)(二)の各処分には、旧所得税法一〇条の適用を誤つた違法が存するといわなければならない。

ところで、控訴人は別表(一)(二)の各③欄記載どおり昭和三七年度、昭和三九年度の各所得がある旨自認しているので、これを基礎にして右各年度の所得税及び過少申告加算税を計算すると、控訴人主張のごとく別表(一)(二)の各③欄記載のとおりになる(必要経費、その他の所得控除額、税額控除額、源泉徴収税額の各金額については、いずれも当事者間に争いがない。)ので、本件(一)(二)の各処分中右認定の限度を超える納付税額及び過少申告加算税額部分の取消しを求める控訴人の請求は正当として認容すべきである。

よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決を取り消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条・八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(井口源一郎 伊藤俊光 佐藤貞二)

別表 (一)、(二)〈省略〉

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